≡ いのち。 ≡

　写真は、
　瞬間を時間から切り取り、
　空間へ焼き付ける。

「写真はキライ」 　彼女はそう言った。
「私を閉じこめないで。縛らないで」
　彼女はそうも言った。
「そんなものを後生大事にとっておかないで」
　そして彼女はこう言った。
「だって、ここにいるんだから」

　数十年の歳月が過ぎ、私は彼女の死を看取った。
　葬式に遺影はなかった。
　墓はあるが、中身は空だ。
　彼女の遺した最後のモノを、私は火で焼き、灰を撒いた。
　彼女はいなくなった。
　彼女の中の私とともに。

　いずれ私は、私の中の彼女とともに火に焼かれ、灰になる。
　灰は土に還る。
　そして、私もいなくなる。

　いずれ君たちの中にある私たちも、君たちとともに土へ還る。

　ひとは時間に縛られ、
　そこから抜け出すことはできない。

　そして、いなくなる。
　いなくなりつづける。
　いなくなるひとがいなくなるまで。
　ひとはいなくなりつづける。

　それでも、ヒトはいつづける。

　君がそこにいる。
　そのために、いのちはいなくなる。
　そして君もいなくなる。
　いのちがそこにある、そのために。

　君がいるから、いのちはありつづける。
　いのちがあるから、君がいる。

　いのちは、つづく。