憩 ら い(ナレーション) 詩 立原 道造
風は或るとき 流れて行った
絵のような うすい 緑のなかを
ひとつの たったひとつの 人の言葉を
はこんで行くと 人は だれでも うけとった
ありがとう と ほほえみながら
開きかけた 花の あいだに
色をかえない 青い空に
鐘の歌に溢れ 風は澄んでいた
気づかわしげな 恥じらいが
そのまわりを かろい 翼で
においながら 羽ばたいていた
何もかも あやまちは なかった
みな 狩人も 盗人もいなかった
ひろい風と 光の万物の世界であった
風 に 寄 せ て(合唱) 詩 立原 道造
そうして小川のせせらぎは 風がいるから
あんなに たのしくさざめいている
あの水面(みず)のちいさい かげのきらめきは
みんな 風のそよぎばかり
小川はものを おし流す
藁屑を 草の葉っぱを 古靴を
あれは 風が ながれを おして行くからだ
水は とまらない そして 風はとまらない
水は不意に 身をねじる 風はしばらく 水を離れる
しかし いつまでも 川の上に 風は
ながれと すれずれに ひとつ 語らいを くりかえす
長い ながい一日 薄明から薄明へ夢と昼の間に
風は 水と 水の翼と風の瞼と 甘い囁きをくりかわす
あれは もう叫ぼうとは思わない 流れて行くのだ
混声合唱の為の組曲『遠い日へのヴァリエーション』は1975年に作曲した最初の合唱曲です。
詩は立原道造のものです。
2020年に一部を改作しました。
組曲全体の構成を簡単に説明します。
1.「憩らいー風に寄せて」…「憩らい」のナレーション、「風に寄せて」の合唱の二部構成。
2.「歌ひとつ」………………合唱
3.「風と枯木の歌」…………合唱-ナレーション-合唱-ナレーションの順で曲が進みます。
4.「夜の夢」 ………………合唱部よりも伴奏の部分が長い少し変わった曲。
5.「子守唄」 ………………合唱:この曲は合唱の他にさまざまな編曲もあります。
『風に寄せて』はこの組曲中最も大きな規模で、且つテンポの起伏も大きくなっています。それだけに演奏も
少し難しい部分があります。初演時もかなり苦労しました。