ペールは 詩を読んだり 歌を作って うたうことの すきな少年だった 彼は 立原の詩と ラベルの音楽を愛した そして 友だちから いつも その人に 似ていると 言われた これは いけない と 考えながらも ときどきは 満足して そして よく つぶやいたものだった ・・・・・・・ひょっとしたら 死ぬかも しれない ※ |
生涯の おわりになって 悲しい歌を ひとつだけ 作った
まわりにいた人たちは みな
悲しい心の 人たちだったので
彼には 絶望と 悲しみが
人生の 理想に 近かったのだった
≪ なつかしさ が こみあげて
≪ 空 を みあげると
≪ ましずかな 青が
≪ 遠く かなたに
≪ 澄んで おりました・・・・
※
よく 公園へ 遊びに いった 青く 澄んだ 空と 白い雲 たくさんの 樹々と 小鳥たち さらさら 流れる 小川 白い水しぶきを あげている 噴水 むじゃきに走りまわる 子どもたち |
すべては たのしそうに くるくると まわっていた
そして 歌っていた
音楽の中の一日
彼の心は よろこびで 満ちあふれていた
≪ 何と 世界は たのしいのだろう!
長い 一日が 彼の上を 流れていった
≪ しずかな しずかな 公園の 昼さがり
≪ だれも いない 遊園地
≪ だれも いない ブランコに
≪ 九月の 風が ささやきかける
≪ ひなたで輪を描いていた 風は
≪ ちょっぴり はにかんで
≪ 森の 中へ かくれてしまった
≪ 木漏れ日のただよう 森の奥
≪ 大きな けやき の上に つぐみが いねむりを している
≪ すると いたづら好きの 風がやってきて
≪ そっと 樹の葉に ささやいた
≪ つぐみは 目をさまし たちまち 森は 陽気に 笑いだす
≪ やがて 夕ぐれが せまり 風は 夕焼けの方角へ ながれ
≪ つぐみは そっと
≪ けやきの 枝を 飛び去った
≪ しずかな しずかな 公園の 夕ぐれ
≪ だれも いない 遊園地
≪ だれも いない ブランコに
≪ 星の ひかりが ささやきかける
※
郵便局で 日が暮れる 街の 雑踏に 灯がともる 風が 遠く 時間を知らせて行く それから 朝が来た 本当の 朝が 来た また 夜が 来た また あたらしい 夜が 来た 少年の部屋は からっぽに 残されたままだった |
≪ すべてが 凍結してしまったように
≪ 動かない 夜の 淵で
≪ 僕の 聞いた あの 響きは
≪ あれは 一体 何だったのだろう・・?
≪ あの ひびきは・・・・・
≪ あれは 夜の 夢・・・?
※
遠い町々に ひとつひとつと 灯がともり やがて ひとつひとつと 消えていった 彼は 北の 海べの 雪の中に うずくまっていた もう 悲しみも そして寒ささへも 感じはしなかった よるべない 冬の海の あの 波音が 彼には まるで 昔 母から おそわった 古い 唄のようにも思われた 遠い なつかしい ひびきであった それは たぶん 子守唄であったのだろうか? あたりの風景が 希薄になって行くのを感じた ただ その なつかしい歌声だけが とおくから 押し寄せてくるようであった 彼は やがて 笑みに似た表情を 浮かべると そのあと ゆっくりと 目を とじた・・・・・ 真冬の夜の海は 割れんばかりの波音を 砂浜に たたきつけていた そして 雪が 暗い 潮騒に すいこまれるように しずかに 舞い降りていた 白い 雪であった・・・・・・ ~ 完 ~ |
後 記 |
この『ペールの朝』という物語は私が20歳の頃に立原道造の『初冬』という 長篇詩を題材にして作ったものです。 今となっては、かなり、気恥ずかしいのですが、ただ同じ時期に作曲していた 『遠い日へのヴァリエーション』と密接な関係があるため、あえてここに 加えることにしました。 |
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