相変わらず、友香の話は唐突だ。いつもの帰り道を辿りながら話すのは、大抵が友香の始めた話だった。
「千夜は知らないうちに面食いになってると思うの」
「なにそれ」
千夜が怪訝な顔をする。当然だ、前振りもなしで話すことでもない。もっともこれが前振りだ、ということなのかも知れないが。
「毎日モデルのお母さんやら、小早川くんやらの顔見て育って、周りの他の人見てもカッコイイとか思わなくなってるのよ」
「……どうでもいいけど、友香って結構失礼よね」
「別に千夜をけなしたつもりはないわよ」
しれっと言う。悪気も悪意もない。裏表のない友香の含みのない言葉だから、千夜も別に傷つきはしないが。
「千夜だって可愛いし、いい造りしてるのよ?でも華がないのよね。わざと目立たないようにしてるでしょ」
「そんなことないけど」
「でも小早川くんと一緒に歩きたがってないじゃない」
ズバリだ。
「別に双子だからって一緒にいなくたっていいじゃない」
「別に一緒にいたっていいのよ?……小早川くんの隣に、千夜がいちゃいけないって誰が言ったの?」
「それは……」
裏を返すような友香の言い様に、言葉に詰まる。
「ほら、避けてないって言い切らない」
「……友香。私思うんだけど、普通こういうのって弟離れしたらとか、そっちの方向でアドバイスとかするもんじゃないの?」
勝ち誇る友香の様子に素直に敗北しつつも、問題を根底から覆す疑問をはさむ。不利になった話題をずらす、とも言うが。
「そりゃあ、あんまりベッタリなのもどうかと思うけど。千夜のは何か、小早川くん可哀相よ?」
「明が何か言ったの?」
「言ってないけど、言われる心当たりあるんだ」
「何でいつも先帰るのって。でも、別に、避けてるとかじゃなくてね……だって普通、一緒になんて帰らないでしょ?」
またも墓穴を掘った千夜の言葉は、声こそ平静だがどこか必至ですらある。何に言い訳するのか、何を納得させようとしているのか……。
「まあ、ねぇ……千夜がなんでそこまで、その普通にこだわるのかは知らないけど。荷物ある時くらい頼りなさい?それはそっちのが普通だと思うわ」
呆れた声で友香が言われ、明と同じようなこと言うのね、と溜息をついてみる。
「まあ、小早川くんモテるからねえ……ま、私はあーゆー“みんなの王子様”には興味ないけど。……だから千夜、あんたも恋をしなさい」
何がどう“だから”なのかわからなけれど、別れ際の勢いで押されてしまう。友香は友香で心配してくれているのだ、と思う。曖昧に頷いて、手を振る。
ただ……恋は相手が必要だ、ということを失念しているのだ。
したくて出来るものでも、しようと思って出来るものでもない。そして、逃げられもしない。恋に“落ちる”とはよく言ったものだ。逆らえない。それは運命を引き寄せる引力。
「恋ねえ」
恋なんて、真面目に口にする言葉じゃない。口にすればこんなにも嘘っぽくなってしまうから。